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日常茶飯本

“暮らしの本”愛好家の日記

梅雨の時季のリネン考。/『リネン屋さんのリネンの本』

衣の本 住の本 小説
 

リネンシーツの幸福を、教えてくれた本。

あらゆるものが湿気を帯びる、日本の梅雨。この時期を、できるだけ快適に過ごすための良き相棒として、私が真っ先に思い浮かべるのが、“リネン”です。

 

梅雨どきに、リネンの何がありがたいかというと、まずはその吸湿性。水分を吸い取る速度は、コットンの約4倍で、繊維の組織に中空構造を持っているからだそうです。加えて、その吸い取った水分を、素早く発散してくれるそう。

この特性が何にいちばん適しているかというと…それはシーツ!!

汗をかいても、すばやく吸い取って発散してくれる、天然のサーモスタットのような機能を備えているのが、リネン生地のシーツなんですね。

ほんと、ひと晩じゅう、ずーっとさらさら。

風呂上がりに、ひんやり滑らかな肌ざわりのリネンシーツに寝転がる心地よさときたら、ちょっと他では味わえない感じです。ほんと、梅雨もそう悪くないと思えるような…。

夏、上質なリネンのシーツがあれば、熱帯夜の寝苦しさから、かなり解放されます。すると冷房の温度をそこまで下げなくてもいいし、結果、省エネと節約に。そして、この特性にはもうひとつ素晴らしい利点があり…つまり、洗濯してもすぐ乾くのです(部屋干しですら!) 。梅雨どきに、これ以上、ありがたい繊維があるでしょうか。

 

と、ここまで絶賛しているわけですが、この“リネン”の魅力を、最初からわかっていたわけではありませんでした。むしろ長年、この手強い素材には、いまひとつ馴染めなかったのです。

「 雑誌やら何やらでよく取り上げられているけど、そこまで良いものなの?」と。

そのお洒落なイメージに惹かれて、とりあえずキッチンクロスもランチョンマットも、タオルも服も靴下も、ひと通り試してはみたものの、「なんかケバケバでしわしわで固い」という印象が拭えず、ずいぶん長い間、リネンに良いイメージは持っていませんでした。唯一、気にいって使ってたのはカフェエプロンくらいで。

 

特に洋服としてのリネンは、非常に苦手でした。これは今も同じで、リネン特有のしわや、ざっくりした質感を格好良く着こなすのは、自分にはタイプ的に難しいと見切りをつけました。なので、服に関してはパジャマと、部屋着もしくはワンマイルウェアまでと決めてます。

似合う人には、ほんとリネンってしっくりきますよね。桐島かれんさんとか。あとイメージ的には、紅の豚のフィオとか、『スプートニクの恋人』のすみれとかが似合いそうです。

 

というわけで、私が愛用するアイテムは、ベッドまわり&キッチンまわりのリネンが主です。そして、それこそが(たとえ私のように、身につける衣類としてのリネンが似合わないタイプであっても)、この素材の素晴らしい特性を享受できると理解したのです。

そして、その手引きとなったのが、この『リネン屋さんのリネンの本』でした(ずいぶん前置きが長くなりましたが…)。

 この本の初出は2006年です。ブックデザインは「L’espace」の縄田智子さん。10年近くを経た今も、古さを感じさせないセンスの良さで、飽かず眺めてしまいます。その美しい紙面のなか、リネンの特性を知り尽くした「リネンバード」のオーナーが、専門店を営む立場から、この素材の魅力をわかりやすく語りかけてくれる構成となっています。

 

今でこそ、ずいぶんポピュラーになったリネンのアイテムですが、その本当の良さを実感するためには、実際に使ってみる行程に加えて、リネンの正しい取扱い方法を知っておくというのが、いちばんの近道だと、今となっては思います

色々とリネン製品に触れてみて、そしてリネンに関する本を読んでみた上で、結論としてたどり着いたのは、「手入れの知識が必要」というのと、「少なくともリネンに関しては、たとえキッチンクロス一枚であっても、ちょっと上質なものを試してみた方が良い」ということでした。私が当初、使ってみた様々なリネンは、雑貨店などで何気なく買ってしまった「中途半端なリネン」だったこともあり、それがすぐにリネンの良さを実感できなかった理由でもあると思います。

もちろん、正しいお手入れの方法を知らず、ほとんど綿と同じように扱っていたというのもダメでしたね。リネンはすごく丈夫な素材(ちなみに耐久性はコットンの約2倍)ですが、たとえば乾燥機は繊維を傷めるので、NGなのです(というか、すぐ乾くので乾燥機自体ほぼ不要ですし)。この本のなかの「リネンを扱うとき、気をつけたいポイント」は、すごく役に立ちました。

 

さて、リネンにも色々とお国柄があります(といっても、製品の表記にあるのは縫製などの最終行程を行った国が書かれていることが多く、「MADE IN BELGIUM」と書かれていても、原料がベルギーのものだとは限らないというのも、この本で知ったのですが…とりあえず、出所がほぼ明らかな生地をさしての話ということで)。

 

たとえば、素朴で可愛らしい印象の東欧のリネン。私が7年ほどヘビーユーズしているカフェエプロンも「リーノ・エ・リーナ」というブランドのリトアニアリネンです。ここのリネンは、ヨーロッパの厳しい品質基準によって管理されたリネン製品に与えられるという「マスターズ オブ リネン」という称号のある、高品質のリネンを使っているそうです。 汚れがついても落ちやすく、毎日の洗濯にもへこたれないというリネンの特性は、エプロンにもぴったり。このエプロンが、リネンのタフさを教えてくれた気がします。

 

また日本にも、山梨にある「R&D.M.Co-」という、糸から作るリネンブランドがあり、ここのリネンアイテムも本当に素敵です。「シャルロット」という名前の、青い小花柄のハンカチを愛用しているのですが、使うたびに嬉しい気持ちになる一枚。日本ならではの職人技を感じさせる丁寧なつくり(手捺染というハンドプリントの仕上げで、縁かがりは手縫い(!)だそう)で、熱狂的なファンがいるというのも、よくうなずけます。

 

そして、「リネンバード」のラインナップの中心ともいえるベルギーリネン。私もその優雅で洗練された美しさに魅了された一人です。特にベルギーリネンのリーディングブランド「リベコ ホーム」のものは、シーツ、キッチンクロス、ハンカチ、部屋着など、どのアイテムをとっても間違いのない使用感で、使うたびに豊かな気分になれます。

上等といっても、キッチンクロスだと1000円以下のものもあり(「コンフィチュール・ミニ」という、名前も可愛らしいクロスです)、ちょっとしたプレゼントにも喜ばれます。この本のなかにも、素敵なクロスが色々と登場して、あれこれと欲しくなってしまいます。

 

また、後半の「作る素材としてのリネン」の項も、手作りをする上で、非常に参考になるページです。生地を糸の太さと織りの目の細かさで、ざっくりと6つに分類してあり、リネンバードに限らず、生地屋さんでの布選びの際に、大いに役立っています。

ピローケースやクッションカバーなど、簡単なものであればチャレンジしやすいですし、自分で作ったリネンの日用品には、よりいっそうの愛着を感じます。キッチンクロスやタオルなどを、私も時々作っています。

 

そういうわけで、この本は私にとって、リネンの入門書のような存在。「リネンを使う傍らに、いつもこの本がある」というような読み方をしている一冊です。この本を入口として、奥の深いリネンの世界へと、足を踏み入れたという感じですね。今も「リネン」と名のつく本を見つけると、とりあえず目を通してしまいます。

 

最後に、リネンというといつも思い浮かべる、素敵な麻の描写を。

「リンバロストの乙女」上巻の中に出てくる、麻のペチコートの描写です。

 

「 鳥のおばさんは身をかがめ、その織物を手で調べてみたが、「まあ、どうでしょう!」と、叫び声を上げた。「手織りの、手で刺繍した、絹のように立派な麻ではありませんか。お金で買われない品よ! 何年このかたこのような品は見たことがないわ。わたしが子供のころ、母がこのような衣装を持っていたけれど、わたしの姉たちがわたしの小さいうちにそれを切り刻んで襟や、ベルトや、ベストだのにしてしまったのよ。この素晴らしい出来栄えをごらんなさい!」

(中略)エルノラは一枚のペチコートを振りひろげた。それは深さが一フィートもある手製の飾りひだがついていた。次にひろげたのは昔ふうのシミーズで、手のこんだ首と袖口の細工はこの上なく見事だった。

 

主人公のエルノラが、高校を卒業するときに母から贈られるペチコートとシミーズ。エルノラの母は、ある事情があって、あたかも娘を憎んでいるように描かれているのですが、この描写を読むと、本当のところではエルノラを愛しているのだというのが、読者に伝わるような仕掛けとなっています。それほど素敵な下着の描き方です。

 

私の手元にあるのは、赤いギンガムチェックの表紙の角川文庫版なのですが、こちらは絶版。現在、河出文庫から出ている方にも、おそらく同じ描写があるかと思います。村岡花子さんが翻訳した本のなかで、個人的にはナンバーワンの小説。素敵な描写が次から次へと出てきて、夢心地にさせてくれる物語です。

リンバロストの乙女 (上巻) (角川文庫)

リンバロストの乙女 (上巻) (角川文庫)

 

 

リンバロストの乙女 上 (河出文庫)

リンバロストの乙女 上 (河出文庫)

 

 リネンという、クラシックな素材への憧憬が増す、私の好きな小説の一節。今年の梅雨も、そしてこれから始まる長くて暑い季節も、“リネンと本と一緒に、愉しむべし”です。