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日常茶飯本

“暮らしの本”愛好家の日記

装う喜びを、ボタンホールに花を。/『The Sartorialist(サルトリアリスト)』

衣の本

The Sartorialist

The Sartorialist

 

世界のリアル・クローズの、果てなき面白さ。

ときどき「◯◯はファッションだ!」というような発言や文章に出くわすことがあります。その大半は批判的な文脈であり、その「◯◯」について、わりと雄弁にダメ出しをしていることがほとんどです。

しかし、それらを目にしたときに私が感じるのは、その批判の対象や内容以上に「この書き手は、“装うこと”にあまり興味がない、もしくはネガティブな感情を抱いているのではないか?」ということ。

「ファッション」といういう言葉は広義のものなので、必ずしも衣服のことだけを指しているわけではないでしょうし、その文章における意味はおそらく「流行の(=上っ面の)」という部分を拾ってのことなのでしょう。また、ファッションには自己主張という側面もあるので、それが人によっては、あまり気に入らない、ということもあるのかもしれません。

しかし、やはり“服を着る”ということに愛着を持っている人ならば、そういった表現は用いないんじゃないかな、と思うのです。はかない、あるいは明らかに馬鹿らしいと思えるような、いっときの流行も含めての「ファッション」なのだと思うし、それこそが服を着るということ、そして生きた人間そのものを考察することにおいての、非常にエキサイティングな部分であると思うので。

 

さて、『The Sartlialist(サルトリアリスト)』は、写真家スコット・シューマンのストリート・スナップ集です。「最高におしゃれ」と感じた街角の人々の写真を紹介するという、2005年にスタートしたブログから生まれた本で、現在二冊が刊行されています(2のタイトルは『The Saltrialist:Closer』)。 

The Sartorialist: Closer

The Sartorialist: Closer

  • 作者: Scott Schuman
  • 出版社/メーカー: Penguin Books
  • 発売日: 2012/08/29
  • メディア: ペーパーバック
  • 購入: 1人 クリック: 1回
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ファッション・スナップの面白さは、やはりその臨場感と「生」の新鮮さにあると思うのですが、この二冊は、いずれもそれらを十二分に備えていて、何度ページをめくっても、その都度、発見があります。

一冊目は2009年、二冊目は2012年に刊行されていますが、数年にわたって読んでいく楽しみがあり、それこそ“流行”では終わらない魅力を備えた本たちです。

 

私は紙の本でじっくり眺めるのが好きですが、下記のブログでももちろん見られます。

http://www.thesartorialist.com/

 

面白いのは、「この人、素敵だな〜」と感じる人が、ときに変わっていくこと。これは、自分自身の「おしゃれ観」の変化でもあると思うのです。そして、何度見ても変わらずに、すごく好きなコーディネートというのもあります。それが自分の「おしゃれの核」なんだろうな、と感じます。

ココ・シャネルの名言に「ファッションは変わる、でも、スタイルは永遠よ」というのがありますが、この「おしゃれの核」というのが、すなわち自分にとっての「スタイル」と言い換えられるのかもしれません。

 

個人的に、見るたびに「いい!」と思うショットをいくつか書き出してみます。

まずは一冊目から。p30の白髪のマダム。ニューヨークの5月、ラベンダーがかったライトグレーのワントーンコーデに、ネイビーのヘアバンド、上品なパールのネックレスとターコイズ・ブルーのバングルがベストバランス。何気ない足元のシャネルのフラットシューズに無理がなく、この馴染み具合がほんと凄いです(相当のセンスのある、ある程度年配の女性でないと出来ない筈)。これまた堂に入ったモデルポーズで、にこやかに笑う姿が素敵です。

p157のブロンドのショートへアに、淡いブルーの小花柄のシフォンワンピース。アクセサリーは同じ色合いのロングネックレスのみでシンプルに。いかにも北欧の女の子といった感じの髪の色&瞳の色と、服装がすごく合っています。こういうフェミニンな服装にはショートヘア、あるいはまとめ髪がいいですね。夏のストックホルムでのショット。

 

次は二冊目から。p100の破れたカシミア(ではないかな?)のニットの女の子。ハットとジャケットの素材感がぴったり。ちらっと見える巻き毛も可愛い。何より笑顔がキュートで、この虫喰い穴のあいたニットの堂々とした着こなしから、本当にお気に入りの服を着ているんだろうなと推測できます。かなりおしゃれ上級者の、ロンドンガールっぽい装いです。

p166の、ベルベットのリボンで束ねた髪に、深緑のドレス、右手に深紅のコート、左手にはアンティークっぽいミニのトランクの女性。モードな赤ずきん(大人ヴァージョン)というようなスタイルです。街で見かけたら、異世界を感じて思わず振り返ってしまいそうです。これまたロンドンでのショット。 

 

そして私にとって、現時点での最も好きなショットであり、何度見てもワンダフル!と感じる着こなしは、一冊めのp133の、スキンヘッドに眼鏡、スーツ姿の男性。

品の良いベージュのグレンチェックのスーツに白いシャツ、ネイビーのベスト、同じくネイビーのニット素材のネクタイ。ボタンホールに、それは優雅に赤い小さな花が差し込まれ、そして胸ポケットからチラリと見える、ポケットチーフのフォゲットミーノットブルー(わすれな草色)(!)全てが完璧です。

知性と茶目っ気、エレガンスと遊び心が感じられる、2008年にミラノで撮られたショットです。

ほかにも、書ききれないほどたくさんの素敵な着こなしがありますが(たとえば日本のフォトグラファー&ブロガーであるシトウレイさんや、スコットに「スタイルが時代を超越している」と言わしめた、ファッショニスタのエヴァさんなども素晴らしいです。2人とも、2冊のどちらにも登場)…とりあえず、いくつかを抜き書きしてみました。 

 

ファッションは、「時代を映す鏡」とも言われています。『The Sartlialist』は、それをシンプルに体現したブログ。この本はリアル・クローズというものを考えるとき、欠かせない一冊です。“I'm OK. You're OK.”という言葉が心理学用語にありますが、これらの人々は、私にとっておしゃれの楽しさ、人間の良い部分を見せてくれる、生きたリアル・クローズなのです。

「ファッション」というものに、あまり良い印象を抱いていない人にも、ぜひ読んでほしいと思える二冊。人間に興味があるのであれば、きっと楽しむことが出来る本ではないでしょうか。

おしゃれな人に「のんきで善良で大らかな人」というのは(残念ながら)もしかすると少ないかもしれませんが、「美しいものを愛し、好奇心旺盛で、周りを気遣う人」というのは多いはず!だと、個人的には思っています。

 

インスタグラムが隆盛を極め、「写真の力」を(文字通り)目の当たりにすることは日常ですが、スコット・シューマンの写真はやはり、“人間をとらえる”ということにおいて傑出していると思います。

 

そういうわけで、おしゃれな老若男女のファッション(=人間性)を見ることのできる『The Sartorialist』シリーズは私のファッション・バイブルのひとつです。9月には待望の三冊目が発売予定(もう既に、アマゾンで予約してしまいました…)。

The Sartorialist: X (The Sartorialist Volume 3)

The Sartorialist: X (The Sartorialist Volume 3)

 

 この本が手元に届くのは、9月中旬ごろ。暑さも少しずつやわらぎはじめて、よりいっそう“衣”の喜びを堪能できるのではないかと思います。楽しみ!